部活と勉強と人間関係と、自分のことと家庭の事情と。全部大事なのに時間がない。高校の三年間は待ってくれないのだ。そしたら自分で選ぶしかない、何がいちばん大事で何が後回しなのか。青春は選択の連続だ。
久美子は秀一からもらったピンを返した。あがた祭りの時はつけていたピンを。好きとかそうじゃないとかいうことは、部活が終わるまで考えられないから。久美子は部活をいちばんに選んだのだ。
部活を選んだら人間関係は無視していいか? そんなことはない。一年生の世話係になった久美子は、部に馴染めない美玲を気遣ったり、中学で人間関係に擦れてしまった奏と正面からぶつかったり。自分で選ぶしかないくせに、選びようがない要素が避けようもなく転がり込んでくる。青春ってのはままならない。
自分選んで頑張った、そしたら報われるか? そんなの誰にもわからない。北宇治高校は関西大会ダメ金で、優子たちの夏は終わってしまった。ままならない上に、残酷だ。
なぜ選ぶんだろう。なぜ頑張るんだろう。特別になりたいからかな。特別になったら報われるとか報われないとか、そんなこと飛び越えた先の世界にいけるからなのかな。
久美子にとってはそうじゃないんだ。ただ上手くなりたいんだ。上手くなったら最終的にどうなるかなんて考えてられない。青春は選択のくせに、刹那なんだ。青春はその人にとって、ある瞬間と次の瞬間、そしてまた別の瞬間なんだ。
もう高校生でなくなってしまった僕らは振り返ることしかできない。なんであんなことしたんだろ、こうしておけば違ったのかもって。でも連続としてしか過去を見れない僕らは、あの時青春が本当にどんな形をしていたか、もう知ることができない。過去の選択が何をもたらしたのか知っているつもりになっていても、意味がない。僕らが自分の過去の青春にできることは見守ることだけだ。
久美子が何をするのか、秀一とどうなるのか、次の後輩は、れいなは、滝先生は、全国は、ゴールド金賞は、目が離せない。ああしなきゃとかこうしたらとか、そんなことは口の中に押し込んで固唾を飲むしかない。久美子の青春はもはや、他人事じゃないからだ。